僕はDMM.make AKIBAというスタートアップが集まるコワーキングスペースの運営に関わっていることもあり、日頃から大手企業や行政の方からスタートアップそのものやスタートアップとの協業について相談される事が多いです。このエントリではその際お話していることをまとめました。
- スタートアップとは何か
- スタートアップとお金
- スタートアップと既存企業の協業
- 既存企業は何を得るのか
- 既存企業はスタートアップにどう関わるべきか
スタートアップとは何か
そもそもスタートアップとは大きく下記の2つの意味で使われる。
- 何かしらの事業をおこすチーム
- 短期間で急激な成長を目指す少人数のチーム
日本ではを2の意味で使われることが多い。このエントリーでも2の意味で話を進める。
スタートアップと「ベンチャー企業」との違いは以下のように説明できる。
- ベンチャー企業:リスクの高い領域でビジネスを行う企業
- スタートアップ:領域は関係なく、少人数で急激に成長する企業
つまり「1万人規模のベンチャー企業」「大手製薬会社と競うスタートアップ」という形も成り立ちうる。スタートアップの場合、領域は関係ないとはいえ「革新的なプロダクト/サービス」を期待されることが多い。
スタートアップが行うべきことは、良いプロダクトをより多くのユーザーに短期間で届けること。良いプロダクト、多くのユーザー、短い期間についての定量的な基準は特にないが、設定した課題を解決するプロダクトを創業から2,3年程度でローンチするチームは投資家などから良い評価を得られるようだ。
彼らにとってのゴールはチームによって様々だが、一つの区切りとなるゴールは大きく分けて2つ。
- 他社に買収されること(バイアウト)
- 株式市場に上場すること。(IPO)
この2つは総称して「イグジット」と呼ばれている。
成功の規模も様々。創業半年〜1年程度でどこかの会社の一事業として買収される場合もあれば、Nest Labsのように、立ち上げ2,3年でイノベーター層に受け入れられるスマートフォーム製品を送り出し、その後Googleに約32億ドルで買収されるケースもある。
当然Nest Labsのようなスタートアップはごく一部であり大半のスタートアップは目標半ばで解散する。
スタートアップとお金
スタートアップが解散する理由は様々だがお金が無くなったから解散というケースが多い。プロダクトを開発する間、スタートアップは売り上げを持たないケースが大半である。
従来の発想であれば、自社製品開発のコストを確保するために並行して受託開発などを行い、最低限の売り上げを立てる場合が多い。しかし多くのスタートアップはそれを選ばない。
本来の目的である、良いプロダクトを多くのユーザーに届けることを「短期間」で達成するのが難しくなるからだ。良いプロダクトをローンチすることにリソースを集中する戦略が、スタートアップにとって最良とされている。
とはいえメンバーの給料やオフィスの家賃、そして自分自身の生活費により資金は減り続ける。そこで活動資金を入手する必要が出てくる。資金調達の主な方法は次の3つ。
- 銀行などの金融機関からの融資を受ける
- 国や自治体などが管理する助成金を得る
- 投資家やVCからの資金調達を行う
(これ以外にも、エンジニアが本業のサブプロジェクトとして立ち上げたような超初期の段階では「ビジネスコンテストなどの賞金」も便利な資金調達方法だ)
それぞれ長所短所があるが、このあたりは十分な説明ができるほど事例を見ていないので詳しくは書かない。ただ成功しているスタートアップの多くは金融機関であれ自治体であれば投資家であれ、自社のビジョンや戦略を共有できる、信頼できる相手から資金を得ている。
一方、資金が尽きる前に追加投資を説得できるだけの成果を上げられないスタートアップは資金が尽き、解散する。
(プロダクトを完成させていないスタートアップが何を成果に資金調達しているかは色々なパターンがあるので別の機会でまとめる)
スタートアップと既存企業の協業
スタートアップが開発や販売などの面で既存の大手企業と協業するケースは増えている。スタートアップが既存企業と協業する背景は2つある。
- 開発中のプロダクトのクオリティを高め、ローンチを早めるための協業
- より多くのユーザーを獲得するための協業
スタートアップには各社それぞれ長所短所がある。取り組むテーマや解決のためのアイディアは優れているが技術が乏しいというスタートアップもあれば、その逆のパターンもある。一口に技術といっても、電子回路やサーバサイドなどの分野のプロトタイピングは得意だが、量産や大規模サービス運用の経験を持つスタッフがいないスタートアップもある。
量産技術面に不安を持つスタートアップは要素技術や生産、物流機能を持つ大手メーカーなどと連携するケースが多い。また、技術は優れているが情報発信や販売に関するノウハウの乏しいスタートアップが、大手メディアや広告代理店、商社と協業することでその弱点を埋めるケースもある。
ソフトウエアであれハードウェアであれ、製品開発であれ販売戦略であれ、必要なスキルをまんべんなく持つチームでないと良いプロダクトをユーザーに届けることは難しい。こうした背景からスタートアップが自身の弱点を埋めるために既存企業と協業することは多い。
技術面での協業事例として、指輪型デバイスの開発を目指す16Labと、大手メーカーであるアルプス電気による「OZON」の共同開発が挙げられる。
http://eetimes.jp/ee/articles/1510/13/news064.html
上であげた「資金調達」も見方を変えれば資金不足という弱点を埋めるための協業とも言える。
既存企業は何を得るのか
スタートアップとの協業を望む大手企業の目的は、自社だけでは生み出せない新たなプロダクトやビジネスに早いうちから関わることで、「将来的な利益」を受けられるようにする点にある。
将来的な利益の代表例として以下の2つが挙げられる。
- 自社技術や商材に社外からの意見を取り込むことによる多様な新製品(とそれによる売上)
- スタートアップとの協業そのものがもたらすマーケティング効果
大手企業はその歴史と組織の大きさゆえに自社のリソースのみで新たなビジネスにチャレンジをするのが難しい。スタートアップの持つ革新的なアイディアやビジョンが、大手企業が新たなチャレンジを起こすために有効だろう。スタートアップとの連携に可能性を感じる企業は多い。
既存企業はスタートアップにどう関わるべきか
連携に可能性を感じ、様々な企業がアクセラレーションプログラムやハッカソン、イベントを通じてスタートアップとコミュニケーションを取り、中には協業に至るケースがある。
しかし、大手企業とスタートアップの協業の全てがうまくいくわけではない。破綻するケースの一例として以下のようなものが挙げられる。
- 意思決定スピードが違いすぎて作業が進まない
- 大手企業側担当者の異動
- 一方が短期的な成果を追い求めすぎる
そうした事が起こる場合の背景として、スタートアップと大手企業側それぞれの目的意識、ゴールイメージを共有できていない点があるだろう。
スタートアップとの協業により作り出そうとするある事業が、大手企業の担当者にとっては並行して進めている複数の事業の一つである一方、スタートアップにとっては直近1,2年で成果を出さなければ自社の解散につながる重要な事業だった、というケースもある。こうしたギャップは大手企業とスタートアップ双方のモチベーションの違いにもつながる。
スタートアップと関わろうとする企業は、協業して進めたい事業について下記のポイントを明確に発信する必要がある。
- 時間軸
- 目指す成果
- 事業に対し自分たちが提供できる価値
- スタートアップに提供して欲しい価値